緑の飛行体


この鑑別所の所長はとても感じがいい。
「ハイ、仕様がないですね。けれど良い感じですよ、この調子で行きましょう」

声は笑っているが視線はもう書類に落とされていて見送られているのかわからぬまま「ありがとうございました。よろしくお願いします」と訳の分からないさようならをする。

鑑別所の受付は常に混沌を窮めている
全く空気の読めていない陽気過ぎるBGM。
かたかたと震えながら落ち着きのない小人。
爪を噛みながら「ご自由にどうぞ」の珈琲をザブザブ飲む貴婦人に、睨む老人、天井の穴の規則性はあるのかと上を向く自分。

リズムカルなBGMに混じってパタパタと仮靴の跳ねる音がよく響く床。
雑居ビルに入る鑑別所には高尚な板が敷かれているらしく建付けの悪い扉は開け閉めする度に軋んで座る椅子すらも揺らす。

はっきり言ってめちゃくちゃ居心地良くない鑑別所には二週に1度通い、予定を切り詰めている
安寧を得る為に切り詰めているのは時間と資源と精神である
無から有は得られないとは言うが、有から無にはとても簡単に出来る

鑑別所から出ると夜風に混じり秋の匂い
花々の香りではなく虫が潰れてしまった刺す臭い。
虚しい気持ちを宥めるために飴を舐める
飴は苦い。見えている世が正しいのなら飴は舐めない方が良いと夢の住人が叫んでいる
夢は今見ている、目覚めたら本当の秋の匂いがするだろう、住人の話を信じることにして眠る。